技術イノベーション

ベライゾンがVoIPを急ぐ理由――LTE上で音声通話を実現するOne Voice

文◎藤井宏治(IT通信ジャーナリスト) 2010.05.21

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日本でのLTEのVoIP化が、共通仕様One Voiceの策定により前倒しになる可能性が出てきた。トリガーは米ベライゾンの積極策。RCSなどのIMSアプリの展開が、この動きを加速させそうだ。

日本でも、今年NTTドコモが導入する新たなモバイルデータ通信システム、LTE。このLTEに対応したハンドセットで、どのように音声通話サービスをサポートするかを巡り、キャリアやベンダーの動きが最近活発になっている。2011~2012年頃の投入が見込まれるLTE対応ハンドセットの開発を控え、技術仕様を固める必要に迫られているからだ。

なかでも話題なのが、欧米の有力キャリア、ベンダー12社が参加する「ワンボイスイニシアティブ(以下ワンボイス)」の動向である。

ワンボイスでは2009年7月からLTEで音声通話とSMSを実現するための共通仕様「One Voice Profile(以下One Voice)」の策定を進めており、同11月にその第1版を公開した。

LTEでのVoIP共通仕様

ワンボイスが注目される理由の1つは、そのメンバー構成にある。

2009年12月に北欧で世界初のLTE商用サービスを開始したテリアソネラ、米国初の商用導入を今年計画するベライゾン・ワイヤレス、さらにはボーダフォンやAT&T、テレフォニカ、オレンジと、LTEに意欲的な欧米のキャリアが名を連ねる。また、エリクソン、ノキアシーメンスネットワークス、アルカテル・ルーセントの3大インフラベンダーのほか、ノキア、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ、サムスンという有力端末メーカーも顔を揃えている。

ここで策定されたOne Voiceは、LTE対応ハンドセット向け音声対応技術のデファクトとなる可能性が高いのである。

もう1つの理由は、LTE上でVoIPをまさに今、実用化するためにOne Voiceが策定されていることだ。

パケット通信方式にしか対応しないLTE上で音声通話を実現するための手段は原則VoIPだけだ。無線区間の遅延(RTT)が20msと小さい、QoS制御の仕組みを持つなど、LTEはVoIPによる音声通話サービスを念頭に規格が策定されている。

しかし現在のところ、大半のキャリアは、LTE上でのVoIPの本格展開には慎重だ。(1)移動通信での本格展開事例がまだない、(2)前提となるIMSが構築途上であったり未導入のキャリアも多い、(3)音声通話は3Gで提供できるため、急いでLTE上で展開する必要性が薄いことなどが、その理由である。

当面、LTEはデータ通信に特化させ、音声通話は従来通り3G(あるいは2GのGSM)で行い、段階的にVoIPへと移行していくのが現実的と考えられているのだ。LTEと3G音声通話の連携を実現する技術としては、ドコモが3GPPに提案し標準化された「CSフォールバック(Circuit Switching Fallback)」がある。

これに対してOne Voiceは、将来の本命であるVoIPに早期に歩を進めることを想定して策定されたものである。

脱CDMA2000がトリガー

では、なぜ今、このような動きが浮上しているのだろうか。

ワンボイスの設立メンバーの1社であるエリクソンで、北東アジアCTOを務める藤岡雅宣氏は「ベライゾンがLTE対応ハンドセット向け音声通話サービスを当初からVoIPで提供したいと考えている」ためと説明する。

実はOneVoiceは、もともとベライゾンがLTE上で音声通話を実現するために策定を進めていた技術仕様がベースになっている。その技術仕様を業界標準にするため立ち上げたのがワンボイスなのだ。

それではベライゾンがLTE対応ハンドセット向けにVoIPを選択した理由は何だろうか。

まず挙げられるのは、同社が現行のCDMA2000からLTEへの移行をなるべく早く進めたいとの考えを持っていることだ。この背景には、世界市場で少数規格となったCDMA2000では競争力の確保が難しいという判断がある。3Gサービスの早期停止が前提なら、当然VoIP化を急がなければならない。

もう1つ大きな動機と見られているのは、同社の株式の45%を保有する大株主ボーダフォンとの事業連携の強化である。W-CDMAのボーダフォンはCDMA2000のベライゾンとシステムが異なるため、現在はローミングできない。しかし、ベライゾンがLTEでVoIPに対応すれば、One Voice仕様のW-CDMA/LTE対応ハンドセットで米国でのローミングが可能になる。

さらにLTEのカバーエリアが現行のCDMA2000に近づけば、ベライゾンもボーダフォンと同一仕様の端末を主力として展開でき、共同調達によるコスト削減も可能になる。

IMSアプリがVoIP化を加速

ではOne Voiceの登場は、欧州や日本のLTEにはどのような影響を与えることになるのだろうか。

まず予想されるのが端末の共通化の進展だ。前述のW-CDMA/LTEデュアル端末が、LTE対応ハンドセットの標準仕様となる可能性が強い。VoIPとCSフォールバックの両方がLTEハンドセットに搭載されれば、ドコモやソフトバンクもベライゾンとローミングできるようになる。

さらに、ベライゾンに牽引される形で、欧州や日本でのVoIP展開が前倒しされることも予想できる。そのうえで藤岡氏がカギと見ているのが、ベライゾンがVoIP導入を機に注力すると見られるMMTelやRCSといったIMSアプリケーションである。

One VoiceのVoIP仕様はMMTelのサブセットであり、拡張してマルチメディアに対応させることも容易だ。3GPPではRCS(Rich Communication Suite)の名称で、プレゼンスやコンテンツ共有、IMなどマルチメディアを活用したIMSベースのコミュニケーションサービスの標準化が進んでいるが、「現在検討中のRCS 2.0ではMMTelも取り込まれ、連携が強化される」(藤岡氏)という。

これらをベースに米国で多様なコンシューマおよび企業向けの新サービスが花開けば、欧州や日本でもLTE対応ハンドセット向けのVoIP展開が加速することになりそうだ。

 

 
 

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