IoT化でコインランドリーがより便利・快適に様変わり

共働きの増加や清潔志向の高まりで再び注目を集めるコインランドリー。業界最大手のアクアはクラウド化によりビッグデータを活用し、利用者とオーナー双方の利便性を向上するサービスを目指している。

コインランドリー市場が拡大している。厚生労働省の調査によると、2015年度は1万6454店舗と、05年度の1万3746店舗から10年間で約1.2倍に増加した。ここ数年のデータは公表されていないが、年間400~500店舗のペースで増え続けており、2020年には2万店舗を超えるとの予測もある。

かつてコインランドリーといえば、銭湯などに隣接した狭いスペースを使い、学生や単身者など自宅に洗濯機を置いていない人が利用するものとされていた。最近は共働き世帯の増加に伴い週末のまとめ洗いや、清潔志向の高まりから羽毛布団やじゅうたん、スニーカーなど自宅では洗いづらいものの洗濯に活用されており、顧客も主婦層が中心だ。地方や郊外のロードサイドでは広い駐車場を完備していたり、カフェやペットショップを併設するなど、店舗そのものも従来とは様変わりしている。

こうしたなか、コインランドリー市場の成長可能性に着目し、IoT化に取り組んでいるのが、大手家電メーカーのアクアだ。

地方や郊外のロードサイドを中心に、従来のコインランドリーのイメージを覆すような店舗が登場している(写真は、ボルダリングを併設した店舗)
地方や郊外のロードサイドを中心に、従来のコインランドリーのイメージを
覆すような店舗が登場している(写真は、ボルダリングを併設した店舗)

3段階に分けてIoTシステムを発展アクアの前身である三洋電機は、1971年に国内で初めてコインランドリー向け洗濯機を開発・発売した。中国ハイアール・グループの一員となった現在もコインランドリー業界におけるシェアは約75%とトップを維持している(産業機械工業会コインランドリー分化会調べ)。

アクアは2016年9月に日本マイクロソフトと家電IoTサービスの開発で協業、2017年12月から「AQUA次世代Cloud IoTランドリーシステム」をスタートした。

このシステムに対応したランドリー機器やコインランドリーに設置してICカード決済や領収書発行などを行う「マルチ端末」と、マイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Azure」上のIoTランドリーシステムを接続することで、利用者とオーナーの双方に新たな機能やサービスを提供するのが目的だ。

アクアは2005年からこれまでコインランドリーにサーバーを設置しネットワークでつなぐ「ITランドリーシステム」を展開しており、全国1600店舗・約2万1000台の機器が接続されている(2017年8月末時点)。オーナーは遠隔からIDによる売上管理や稼働管理、機器トラブルのリセットなどを行える。なお、新たなIoTランドリーシステムは、このITランドリーシステムの発展形となる。

オーナーは遠隔からダッシュボードで、売上実績や稼働状況を管理することができる
オーナーは遠隔からダッシュボードで、売上実績や稼働状況を管理することができる

ITランドリーシステムの場合、ディスク容量の制約から店舗のサーバーに蓄積したデータを古いものから破棄していた。それがIoTランドリーシステムでは、すべてのデータがクラウドに集約される。これにより、「オーナーはビッグデータに基づいた経営が可能になる」とアクア マーケティング本部コマーシャルランドリー企画グループディレクターの秋馬誠氏は話す。

アクア マーケティング&オペレーション本部 ランドリーグループ マネージャー 秋馬誠氏
アクア マーケティング本部
コマーシャルランドリー企画グループ ディレクター 秋馬誠氏

また、ITランドリーシステムではネットワークにインターネット回線を使い、併設しているクリーニング店のPOSレジや監視カメラのネットワークと併用している店舗が多かった。厳重なセキュリティ対策を取っていたこともあり、これまで特にトラブルはなかったというが、IoTランドリーシステムでは機器から上がってくるデータについてはIP-VPNとAzureの専用線接続サービス「ExpressRoute」を使ってクラウドとつなげることで、セキュリティの強化も図っている。

アクアではこのIoTランドリーシステムを「スマートシティのプラットフォーム」と位置付け、3段階に分けて開発・発展させる計画だ。

まず2016年10月から始まっている第1フェーズでは、マルチ端末で非接触式ICカードを使った会員証の発行や引き落とし、現金による決済、領収書の発行などが行えるようになる。現在は京都市内のコインランドリーでテスト運用しているところだ。

また、「撥水加工」「毛布ふんわり」など計6種類の中から利用者がニーズに合わせてコースを選べるほか、洗濯・乾燥の終了をメールで利用者に通知したり、終了時に店舗にいられない場合には機器のロック時間を延長するサービスなども提供する。

一方、コインランドリーのオーナーは、洗濯機の稼働や売上などの状況を確認したり、利用状況に合わせた料金設定の変更、機器トラブル発生時のロック解除などを複数の店舗にまたがっている場合でも遠隔から一括して操作できるようになる。リアルタイムでの一括管理により、「雨の日」や「空いている時間帯」など特定のタイミングでの割引クーポンを遠隔から発行することも可能になるという。

かつてコインランドリーは個人経営が多かったが、最近は企業が多店舗展開するケースが増えている。経営層や企画担当者、営業担当者など役職や所属する部署によって必要とする情報は異なるため、ダッシュボード上で表示するデータを設定画面で選択することもできる。

2018年以降の第2フェーズでは、APIの公開により、異業種とのシステムやデータ連携を進め、電子マネーや専用アプリによる決済システムなどのキャッシュレスへの対応も検討する。

最近は投資や業容拡大を目的としてコインランドリー業界に参入する企業が多い。コンビニ大手のファミリーマートはアクアと業務提携し、コインランドリー併設店舗を2019年2月末で100店、2020年2月末で500店体制にする計画を発表している。コインランドリーの利用後にコンビニで買い物をすると商品が割引になるクーポンを発行したり、ポイントシステムの連携など、相互送客につながるような取り組みが考えられるそうだ。

2020年頃から予定している第3フェーズでは、コインランドリー機器からクラウドに蓄積されたビッグデータの活用により、新たなビジネスの創出を目指す。

例えば、天気予報と機器の稼働データを基にエリアごとに需要を予測する「洗濯予報」のアプリ配信、ライフスタイルや季節に合ったコース設定の機器への配信などを想定しているという。

月刊テレコミュニケーション2018年2月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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